「南京の真実」(ラーベ著:講談社)より
12月20日
委員会本部に日本人将校が来ていた。南京一のホテル、首都飯店を片付けたいので作業員20人集めてくれないかという。このホテルには日本軍の参謀将校が泊まることになっている。私は16人世話した。昼にはこの将校が自分でトラックにのせて連れ帰るうえ、5中華ドル支払われるという約束だった。これが日本軍が示したはじめてのまともな対応だった。中国人たちもあきらかにいい感じを受けていた。・・・・・
・・・・・・・・
午後6時、ミルズの紹介で、大阪朝日新聞の守山特派員が訪ねてきた。守山記者はドイツ語も英語も上手で、あれこれ質問を浴びせてきた。さすがに手慣れている。私は思っているままをぶちまけ、どうかあなたのペンの力で、一刻も早く日本軍の秩序が戻るよう力を貸してほしいと訴えた。守山氏は言った。「それはぜひとも必要ですね。さもないと日本軍の評判が傷ついてしまいますから」
いまこれを書いている間にも、そう遠くないところで家がつぎつぎ燃えている。その中にはYMCA会館も入っている。これは故意の、もしくは軍部の命令による放火ではないだろうか。
・・・・・・・
「南京事件の日々」(ヴォートリン著:大月書店)より
12月20日 月曜日
悲惨と苦難のうちに明け暮れる近頃では、快晴の天気だけが唯一の天恵であるように思われる。
8時から9時まで私は正門に立ち、比較的に年齢の高い女性に対し、彼女たちの娘を保護するために金陵女子学院が使えるように、自宅へ引き返してほしいと説得に努めた。みな、建て前としては承諾してくれるものの、帰宅するのを嫌がっている。彼女たちが言うには、白昼に日本兵が再三再四やってきては、ありとあらゆる物を略奪して行くのだそうだ。
10時から12時まで執務室で、日本大使館に提出するため、キャンパスにおける日本兵の所業について公式報告書を書こうとしたが、無駄な努力だった。というのは、日本兵を追い出しにきてくれと、キャンパスのあちらからもこちらからも呼び出しがかかるからだ。・・・・・・
3時に日本軍の高級将校が部下数人を伴ってやってきた。建物内と避難民救援業務を視察したかったのだ。将校がキャンパスにまだいる間に日本兵が来てくれる事を大まじめに願っていた。中央棟にひしめく避難民の視察を私たちが終わったとき、果たせるかな、北西の寄宿舎の使用人がやってきて、日本兵2人が寄宿舎から女性5人を連れ去ろうとしていることを知らせてくれた。大急ぎで行ってみると、彼らは私たちの姿を見て逃げ出した。一人の女性が私のところに走り寄り、ひざまずいて助けを求めた。将校は兵士を叱責したうえで放免した。その程度の処置で、こうした卑劣な行為を止めさせることはできない。
午後4時、・・・・・日本大使館に連れて行ってもらった。再び実状を伝え、使用人2人の送還と、日中の憲兵派遣を要請した。・・・・・
驚いたことに、夕食のすぐ後、今夜の警備要員として憲兵25人がキャンパスに派遣されてきた。どうやら、午後発生した事件の効き目があったようだ。・・・・・・・
今夜は渡り廊下にも避難民がいっぱいで、おそらく6000人以上がいるだろう。今夜は東の空が明るい。城内では略奪が続いている。
「Imagine9」解説【合同出版】より
ひとりひとりの安全を
大事にする世界
これまで多くの人々は、平和とは「国を守ること」と考え、国を守るためという目的で大きな軍隊がつくられ、国の中での争いが放置されてきました。しかし近年では、「国家の安全」だけではなく「人間の安全」という考え方を大切にしようという事が、世界的に言われ始めました。
緒方貞子・元国連難民高等弁務官などが中心となった国際専門家委員会が、2003年に「今こそ"人間の安全保障”を」という報告書を発表し、国連に提出しました。そこには、「国どうしが国境を越えて相互依存を深めていく中、国家ではなく人々を中心とした安全保障の考え方が今こそ必要である」という事が述べられています。
武力紛争下の人々、国境を越えて移動する移住労働者たち、国内外に逃れる難民たち、極度の貧困、HIV(エイズ)などの感染症との戦い、女性の性と生殖に関する健康といった問題は、「国家の安全」だけを考えていたら見落とされてしまいがちな、しかも深刻な「人間の安全」に関わる問題です。
2005年の国連世界サミットでは、「人間の安全保障」という言葉が初めて最終文書に盛り込まれました。じつは、これを推進したのは日本政府でした。「人間の安全保障」という考え方は、「武力によらずに平和をつくる」という憲法9条の考え方と通じ合うものがあります。私たちは、こうした考え方をもっと世界の中で広めていく必要があるでしょう。
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