731を問う!!
2020年5月20日水曜日
細菌戦争2(1952年 元731部隊員作)
今、流行している新型コロナウィルスは生物兵器なのか?それとも自然発生したのか?
細菌は生ける原子爆弾である。北満の一角で細菌の研究に従事した筆者の憂うるものは来るべき戦争への細菌参加である。大試験管5本あれば全世界の人類はことごとく死滅してしまうという。こんな恐ろしい戦争が来ないとは限らない。どこかの国がそれを考えているかも知れぬ。避けねばならぬ。平和を祈念しつつ過去の記録をたどったのがこの一文である。
細菌戦争(『サンデー毎日』1952年1月27日掲載)
関東軍防疫部部員 榊亮平
恐るべき7つの細菌兵器
炭疽菌(たんそ)兵器
炭疽菌の研究は、小畠中佐の担任である。炭疽菌は、脾脱疽菌(ひだっそきん)とも言い、もともと馬やその他の家畜の疫病の病源体であるが、人に感染しても高熱を発し、四肢の末端から漸次壊疽(えそ)を起して腐れ落ち、また内臓に入れば、重い胃腸症状を発し、遂に膿毒症を起こして、人命を奪うという恐るべきものである。牛馬の間に流行すれば、次から次へたおしていき、罹患したものを、焼き捨てていかねば、流行が終息することがない。これはこの菌が極めて抵抗力が強く、菌体に芽胞(がほう)という耐久物質ができると、乾燥の状態でも、永久に死滅することがない。摂氏100℃の蒸気を通じても、普通の消毒薬中でも、よほど長い時間せい息することができる。したがってこの菌が、最も早く兵器化に成功したわけである。乾燥するにも、粉末化するにも、何ら顧慮を要しないので、早速兵器応用の研究を始め、まず前線には榴散弾(りゅうさんだん)爆弾(図1)の弾子にまぶし、爆撃に使用し、弾子は創傷を与えるとともに、創傷伝染を併発させる企図の下に備え、後方戦場では軍馬の集繋場、飼料の集積場等の撒布雨下攻撃、兵站地区には牧場の雨下または謀略用食料品、特に菓子類に混入する方法の研究が進められ、これがため研究助手は、市井に菓子職人として、見習いを終え、研究室の一隅は、さながら菓子工場を見るようであった。赤、青、金、銀、色とりどりのセロファン紙に包まれたチョコレートが、きれいな包装箱に入れ、並べてあった。誰の目にもおいしそうなこの菓子の中身が猛毒の炭疽菌であろうとは、想像し得ようか。
ガス壊疽菌兵器
瓦斯壊疽菌(がすえそきん)も、小畠中佐の担任である。この菌は、創傷伝染病の中で最も恐れられるもので、一旦この菌が侵入すると、含気(がんき)の浮腫(ふしゅ)を起し、それがたちまちのうちに壊疽になり、遂に内部に進み、敗血症を起してたおれるものである。この疾病に罹患すると、敗血症を予防するために、患部の、上の関節から、切断手術をせねば助かる方法はない。
この菌も比較的、熱、乾燥に強いので、炭疽菌兵器と同様に散弾爆弾に充填し、第1線に使用する目的の下に、備えられていた。
小畠研究班には、その他破傷風菌兵器、ボツリヌス菌兵器がある。前者は創傷伝染病中で最も多いもので、戦傷にも漏れなく、この免疫血清を注射し、予防方法を講じておるほどである。従って、兵器よりも、予防用として、毒力の強い免疫単位の高いものを重要視していた。しかし本菌の毒作用が、痙攣性卒中のような、はげしい症状を起こすので、兵器としてもまた、有効なので、ガス壊疽菌兵器と同様な目的、方法で使用するに備えられていた。
ボツリヌス菌は、一名腸結菌とも言われ、ソーセージの中にせい息するので、この名がある。嫌気性菌で、酸素のある所には発育し難い欠点はあるが、その特性を利用し、ソーセージや缶詰に混入し、謀略用兵器として使用すれば、はげしい胃腸症状を起こすので、兵器価値を認められていた。
ペスト菌兵器
ペスト菌は、下仲少佐の研究に属し、菌そのものの抵抗力は大して強くはないが、人体に侵入して、これほど猛烈な作用をするものは、他にその例がなく、しかもその侵入門戸が、多種多様で、気道より入れば、肺ペストとなり、皮膚から入れば、皮膚ペスト、または腺ペストを起し、眼より入れば、眼ペストとなる。その経過の急激なことは、早いのは数時間、遅くも数日を出ずして、人命を奪う。罹患したものは、100%の死亡率を示す恐るべきもので、細菌兵器としては、最も効果的で、兵器化条件に適合するが、取扱いに最も慎重を要するものである。粉末化は不可能であるが、使用方法も種々の方法で行われる。第1線には、散弾爆弾の弾子に付着して、爆撃に液状としての霧状攻撃に使用し、またこの菌は、鼠(ネズミ)族間に流行し、ノミを介して、人体に侵入する経過をとるので、この菌を家ネズミまたは畑栗鼠(はたりす)に注射し、鼠を飛行機より落下する場合と、注射した鼠を吸血させた毒ノミ収集、特別の方法で撒布あるいは落下傘をもって、敵陣地等に落下せしむる方法等も用いらる。
ノミの培養
蚤(ノミ)は、ペストの媒介体として、有効であるばかりでなく、回帰熱、発疹チフス等もまた、これによって媒介することは広く知られているところである。畑野技師の担任するこの蚤の飼育研究が、ペストが最も有効なる兵器であるだけに、重要な研究の1つだということができる。昆虫学者としての畑野技師は、蚤の飼料、飼育床、発育温度等の、綿密な研究により、遂に最短期間に、多量の増殖を得ることに成功したのである。
蚤の生存期間は、夏期に吸血したものは、40日以上、吸血しなかったものは約2週間で、死亡するものである。冬期では、吸血しなくとも1か月以上、生存することができるといわれている。産卵数は、1回に8~10個であるが、その生涯を通じて、800個内外の卵を産むという。
普通の家の中では、畳の間、または床板の隙間に産卵し、夏は2日~6日、冬は12日ぐらいで幼虫となり、10日~12日の後に、化してさなぎとなる。更に12日ぐらいを経て成虫となる。従って成虫となるには、4週~6週間を要するとされている。しかし、畑野技師は、詳細な温度差の研究と、たゆまない観察と豊富な飼料の給与により、4週間以内で、最大限の増殖を成し遂げたのである。
その方法は(第2図)、石油缶の内面の腐銹しないものを選び、上部を開放し、中に粟の穀皮と砂とを等分にしたものを、缶の口から6インチ以下まで入れる。これは蚤の跳躍距離6インチに達しないためである。この中に金網籠に封じたラッテ(大黒鼠)を飼料として入れ、防虫菊粉等に馴らした強い種蚤(たねのみ)を、雌雄2組ぐらい、別に雌蚤5匹ぐらいを投じ、温度を適度にし、暗所に置いて、ラッテの斃死するたびに取換え、相当に繁殖した時期を見て、蚤を捕集するのである。
コレラ菌兵器
コレラ菌は綿貫中佐の担任である。この菌は人体に対する毒力の点は、ペスト菌と双璧である。しかし、毒作用の猛烈なのに引き換え、菌そのものの抵抗力は至って弱く、強酸性のものにあってさえ、容易に死滅する。一般消毒薬に対しても極めて弱い。この点は、兵器価値としての規格に、大きなマイナスである。従ってこの菌の研究は、毒力を高めることよりも、抵抗力を増し、耐酸性を増し、耐乾燥性を増すことに力を入れ、研究が繰り返された。その結果は、数代重ねた移植の菌株は、ある程度この欠点を除くことができた。
この菌の特徴は、抵抗力が弱いにもかかわらず、水中、海水中には比較的長時間せい息する特性があるので、これを利用して、河川、海岸地帯の雨下攻撃、または井戸水、水源地の攻撃、謀略用として、水性飲食品の混入等に使用する。時期は特に雨期に用いるのが効果的である。
奥地研究時代の1932年の夏、ハルピン市内に本菌の大流行があった。その際の調査によると、河江、鉄路等の経路によっても、侵襲源を、突きとめることができなかった。結局は某国の謀略によるものであると断定されたのであるが、その使用方法は、至って幼稚で、数人のスパイが相当多数の培養菌を持ち回って、水源や、水槽を汚染したものであることが想像された。多量の菌を使用したことは、当時路上の水たまりをとって検鏡しても、明らかにコレラ菌の活動を見ることができたほどであった。
馬鼻疽菌兵器
馬鼻疽菌(ばびそきん)は、その名の如く、馬の疾患で、馬の鼻粘膜に棲息し、くしゃみや咳で飛沫と共に飛散し、伝染するものである。研究室における取扱中に、培養飛沫を、鼻腔等に吸収して業務感染することが最も多い菌である。現に、この担任である佐和少佐の前に、本菌の研究担当者であった山口少佐は、当隊の尊い犠牲第1号である。人に感染すれば血行に添って、各所に膿瘍(のうよう)を形成し、膿毒症によってたおれるのが普通である。
この菌は粘膜を透して侵入するので、霧状攻撃または腸管粘膜を狙っての、食料品の謀略に主として用いられる。
チフス菌兵器
本菌は河内大尉の研究に属するもので、一般的に、非常によく知られているが、当研究室に保有する菌種は、一般のものと、その性格が一変しており、抵抗力の強靭なことと、その耐寒性の強いのは、炭疽兵器を除いて、他にその類を見ず、特に当隊独特の低温乾燥装置を用いるときは、粉末化も容易である。
この兵器の欠点である潜伏期間の長いのも、研究者の努力で、48時間以内に短縮することに成功している。毒力も、小動物の実験によれば、その致死量を5分の1に減少し得たことが、証明された。人間に対する毒力は知ることはできないが、当研究室の一助手は、指先の創傷から、本菌に感染し、非常に烈しい症状を起こし、当隊の全知全能を傾け、あらゆる治療剤の投与も、遂に効なく犠牲第9号になってしまった。この尊い体験者の症状より判断して、人間に対する毒力も、極めて強力であることを知ることができたのである。
この兵器の使用範囲は、極めて広く、爆弾、撒布、雨下等の戦場攻撃は勿論、後方謀略兵器としては、各種食料品に混入して用いる。しかも混入後の棲息期間が極めて長く、2週間から1か月余に及ぶことを、立証することができたのである。
赤痢菌兵器
この赤痢菌(せきりきん)兵器は、岬技師の担任である。チフス菌と共に、非常に応用範囲の広い菌である。しかしこの菌は、抵抗力が極めて弱く、患者から本菌の検出をする場合でも、排便直後の便を、培養基に塗らないと、発育しないほどである。また罹患者の予後の危険が少ない。この2つの欠点について、岬技師は研究を重ね、遂に毒力は、小動物に対し、3~5倍に増強し、抵抗力もかなり増強することに成功した。この研究室で保存する菌株の内、1株は数年間乾燥状態で放置するに、なお生存するものがある。これは異例に属し、学問上の奇跡ともいうべきで、赤痢菌中の反逆児である。
この兵器の使用は、チフス菌兵器と大同小異であるが、大都市の水源の攻撃や、集団攻撃には、この兵器の方が、却って効果的であることが予想される。
植物菌兵器
沼田技師は植物病理学者であるが、日々トラクターを駆って、数十町歩の試験農場と戦っていた。また一方、農場の一隅の温室には、何時でも、四季の果実、野菜が見られるように、この栽培にも丹精を込めていた。他から見ると、一般百姓と何ら変わるところがないが、その実は植物攻撃兵器の研究に没頭していたのである。
大麦、小麦を、数度の鋤耕、施肥等、丹念に育成させ、豊穣に実って黄金色になった時期に、あらかじめ収集してある赤錆病、黒穂病の病源体を、これに撒布し、一朝にしてこれを枯草に化せしめる。この実験が繰り返されたのである。
研究の成果は、これらの病源体を、人工的に培養し、増殖することに成功したのである。
この兵器の使用は、言うまでもなく、敵の食料基地、特に敵の穀倉とも言うべき地域を選び、飛行機から撒布し、農作物の収穫を皆無にし、敵国を食糧危機に陥れ、総合的戦力の滅殺を図るような雄大な構想の下に、備えられた兵器である。
以上の数種が、細菌兵器として実用化の域に達したもののみである。この外、病源体の未だ明瞭でない痘瘡(とうそう)、発疹チフス等の、病原に関係ありとされるウィルス、リケッチアの収集やその兵器化についても、研究が進められていた。
大試験管5本で人類壊滅
これらの研究課程を脱した細菌兵器は、攻撃部に回され、その性格に合致する使用器具が創案され、気象、気温等に即応した細菌戦術が案出され、大がかりの攻撃実験を繰り返した後、生産部にその生産データが回され、生産の整備が出来上がって、初めて正規の細菌兵器として記録され、使用に備えられるのである。
今我々が、この研究経過のみを知って、将来の細菌戦を想像してさえ、身内のおののきを覚えるのである。まして彼我共に、これを使用する全面的の細菌戦が展開された場合には、銃後においても、日常生活の間ですら、手にする一物も、口にする一さじの食品も、常に猛毒の潜んでいることを、覚悟せねばならない。濡れて行こう春雨の一滴には、チフス菌が宿り、爽快なるべき朝の煙霧は、恐るべきペスト菌の微粒子であるかもしれない。
かく考えるとき、細菌兵器が如何に絶大な威力を持つかを、何人も首肯することができるのである。
原爆・水爆が、その生産に膨大な工場施設を要するのに反し、細菌兵器は一小研究室さえあれば、極めて大量を生産しうる。また原爆等の原料は、地球上に稀有なものを必要とするが、細菌兵器は無限に存在する。1個の細菌は、30分間に1回の分裂を繰り返すとして、15時間には5億3千万という驚くべき繁殖力を持つのである。大試験管5本の培養菌は、世界人類10数億を、一時にたおしうる毒力を持つのである。
けだし細菌兵器は、潜行する原子兵器であり、、生きた原子兵器である。
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