2020年5月19日火曜日

細菌戦争1(1952年 元731部隊員作)


今、流行している新型コロナウィルスは生物兵器なのか?それとも自然発生したのか?

細菌は生ける原子爆弾である。北満の一角で細菌の研究に従事した筆者の憂うるものは来るべき戦争への細菌参加である。大試験管5本あれば全世界の人類はことごとく死滅してしまうという。こんな恐ろしい戦争が来ないとは限らない。どこかの国がそれを考えているかも知れぬ。避けねばならぬ。平和を祈念しつつ過去の記録をたどったのがこの一文である。

細菌戦争(『サンデー毎日』1952年1月27日掲載)
関東軍防疫部部員       榊亮平



相容れない2つの世界は、原爆の生産にしのぎを削りつつ、なおそれ以上威力的の新兵器の発見に最大の努力を傾けている。かつてアメリカの大統領は、アメリカには原子兵器以上の兵器が3つある、その1つに細菌兵器のあることを演説した。
日本の過去にも、世界の水準以上に、細菌兵器の研究が完成しつつあったことを、国民のほとんどが知っていないであろう。
巨額の国富と、十数名の尊い人命を失い、百数十名の汗血の結晶である業績が、闇に葬り去られたことは遺憾の極みである。筆者はその渦中に過ごすこと8年、その一端を書き残したい心願から筆をとったが、何ら記録があるわけではなく、おぼろげな記憶をたどってのことで、到底詳細な研究事績を尽くすことは不可能である。ただアウトラインを外れずに、研究者の苦心が世に紹介できたら幸いである。(筆者)

広漠たる平原に秘密研究所
☆参ずる者60名
それは1936年の秋10月、春と秋の季節のない、北満としては早や冬が訪れ、木枯らしが身に染みる時節である。しかし部屋の中は暖房が適度に入り、上衣を脱いでも、なお快いほどであった。
新築の会議室は木の香とペンキの匂いが交錯し、なんとなく新鮮な空気が漂い、馬蹄型に並べた机と、何の装飾のないこの室に、四角の花台に、見事に開いた菊花の植木鉢があった。
例により深更の会議は開かれた。集まったもの60数名、本格式の研究が始まる最初の会議である。何れも緊張の面持ちである。菱川部隊長はおもむろに立ち上がった。
「我々の研究室の整備はできた。離れ小島といわれる当隊は、周囲から全く遮断されており、研究環境は全く申し分がない。それに研究に必要な器具、機械、薬物等の準備は勿論、水道、ガス、電気に至るまで、何ら不自由はない。小畠、西山両君と共に、この奥に潜入した当時に比べ、雲泥の相違がある。皆が知っている大都市の大学の研究室などに比べて、何らそん色のないばかりなく、却ってこれらに数倍する設備があることを誇ることができる。今ここに集った諸氏の外に、誰がこの広野に、これほどの文化研究室があることを想像し得るであろうか。ただ生活環境の不利、不便はあるが、しかしこれは、研究者としては枝葉末節で、何ら問題にするに足らぬと思う。
今、この恵まれた研究環境の中に、我々は与えられた任務の完遂に尽くすわけである。研究者としてこれほど幸福なことはない。それに研究経費については何の心配も無いのである。



☆困難なる課題
医者としての我々の天賦は、各種の病源微生体に挑戦し、我々の体内に侵入する道を防ぎ、一旦侵入したならば、これが醸す各種の症状を究め、その苦痛を軽減し、体内にある人類の敵を撲滅し、早急なる治療を図るのが任務である。しかし今、我々が始めようとする研究は、全くこれと相反するもので、医師の立場として、いささか苦痛である。しかしながら科学者として、自然科学の真理の探究に努め、未知の世界の究明発見というこの上もない喜びと、軍人としての立場からは、対敵強力兵器の完成という二重の喜びを以って、この研究を進めてもらいたい。
細菌、その他微生物の、兵器化ということは必ず可能であり、かつすでに兵器として有力なものになり得るという目鼻はついている。如何にしてこれを有効な、対敵兵器とするかが、これからの課題である。これが為には、細菌の毒力を増強し、潜伏期の短縮を図ることに努め、敵の戦力を早急に減耗させる効果兵器たらしめねばならぬ。このように、細菌の生態を変化させるためには、まず培地の添加剤の改良、動物体通過の方法等を考究し、毒力強化試験を反復してもらいたい。次は培養基に発育した糊状の菌苔を、取扱いに便利なような形に変えねばならぬ。それは、細菌が死滅することなく、乾燥粉末化することである。

☆分担者も決まる
次は細菌兵器の使用方法であるが、これを前線に使用する場合と後方戦場に使用する場合、また兵站基地を脅かすもの、謀略に用いる場合等を考え、使用する兵器も銃砲弾、爆弾、雨下、撒布、霧状等、各種の場合を考え、それに適応した攻撃器具の考案には最も力を入れ、一段と創意工夫を凝らし、使用法の簡便でかつ的確なものを完成してもらわねばならぬ。また細菌の種類によって、中間の媒介体で、小動物、昆虫、植物等を必要とするものは、これら動植物の飼育、培殖の方法の研究も進めなければならぬ。
この細菌兵器は、日本のような資材の点で、極めて貧弱な貧乏国には、最も適した兵器であるということができる。昔から戦いに敗れた状態を“刀折れ、矢尽きた”というが、現代戦では、一片の鉄も一塊の銅もない状況となって初めて、有効な働きをするのである。四畳半の研究室があり、1本の試験管があれば、数万の人畜を殺戮する兵器が、容易に生れ出るのである。この点に留意し、我々の責務が如何に莫大であるかを自覚し、また誇りとして、研究に専念せねばならぬ。
前に述べたように、医師の立場と細菌兵器化の研究は、矛盾する場合はあるが、医者としての本務も決して忘却してはならない。それは見えぬ敵から研究者自身を護り、また完成した細菌兵器を取扱うべき友軍の背負将士を保護するため、また敵がこれを使用し、相対的の細菌戦が展開されることを予想し、強力な免疫素質の付与と、他のあらゆる防護措置を考究し、防護体制の万全を図らねばならぬ。なお心すべきは、この幻想世界の探究には、一寸の心の間隙があってはならない。諸氏は一角の細菌学者である。避けがたい不可抗力以外に、不注意による業務感染は、科学者として最も恥とせねばならぬ。巷に売娼を買って性病に感染した輩と、何ら選ぶところがないのである。
ここで言葉を切って、背後に貼った紙面を振り返った。
「これが諸氏に担任をお願いする細菌名と、その研究の向かうべき、種々の方向を示したものである。細菌名は、既に内報しておいたのであるが、それに付随する研究テーマを、後で書き抜いて参考にしてもらいたい。諸氏は、この与えらえたテーマに従って、深く深く、研究を掘り下げ、決してワキ目をしてはならない。研究者の常として、他の研究も知りたいという意欲が、必ず動くものである。しかし当研究室では、これを封ずる。要は横の連絡を絶って、一路己の研究に突進し、一日も早く、兵器完成に努めてもらいたい。しかし縦の連絡は、決して忘れてはならない。研究の過程で失敗したことも、良好な成果を収めたものは勿論、細大漏らさず、報告してもらいたい。私の申し上げることは、これで終わりますが、何か質問でもありましたら承りましょう」
室内の緊張は解け、数条の紫煙が舞い上がった。その中に、笹森中佐は立った。
「ただ今のお話の中で、横の連絡はいけないと、言われましたが、もしある1種の兵器を多量生産するとき、これに対して、他の班からの応援もいけないわけでしょうか」
「いや、そんな意味ではない。某兵器の多量生鮮には、是非とも他の研究班から応援してもらわねばならない。その場合は、細菌の一般取扱操作、即ちテクニックだけの提供ということにしてもらいたい」
あとは色々の研究上の懇談、打合せがあって、この意義深い、最初の会議は終わったのであった。

☆未知の世界へ
この会議以後の各研究室は、文字通り不眠不休、研究の連続であった。静寂そのものの研究室には深更に至るまでこうこうと電灯が輝いている部屋が少なくなかった。
ある研究者は、接眼レンズに色素のついていたのを気づかずに、双眼の顕微鏡をのぞいたまま居眠りをし、四ツ目になったことや、また某は排尿の為研究室を離れる時間を惜しみ、コルペンで用を足していたのが、朝になって3ℓのコルペンに、黄金水があふれるようになった。こうした研究余話は、限りなく生まれただけに、この期間の研究は、長足の進展を見せ、その成果もまた、見るべきものがあった。
ごぼう、人参、銀杏等の植物性のものや、卵黄、魚類の田麩のような動物性のものを、培地の添加剤として加え、これに発育した細菌は、普通の小動物の致死量を、3分の1以下に縮めることができ、また毒力の強化にも成功したのである。なお普通、細菌を動物に注射して、病気の症状を現すまでの潜伏期が、2日~4日のものを、動物体を2回連続することによって、確実に48時間以内で、その症状を起こすまでに成功した。


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