2019年8月1日木曜日

京都大学に対する第731部隊軍医将校の学位授与の検証を求める活動



日本の医学者・医師、医学界・医療界の戦争加担の検証 京都大学に対する第731部隊軍医将校の学位授与の検証を求める活動

○ 西山勝夫(滋賀医科大学)

【目的】
日本の医学者・医師、医学界・医療界の戦争加担について、本学会では1998年に初めて論じた以降様々な報告を行い、日本医学会・日本医師会による資料や証言の国内外からの収集整理と開示の取り組み、全国の大学における検証と医の倫理の徹底した教育、各医学会における学会の検証などが必要と述べてきた。なかでも京 都大学(以下、京大)の占める位置が極めて大きいが、京大による検証は未だないことも示した。
この状況を見過ごせば、京大も再び軍学共同の道を突き進み、その行き着く先はかつての日本軍細菌戦部隊・「731」に象徴されるような医学・医療にあるまじき残虐な戦争加担の再来と想い、京大が自ら検証を行うようになることを目指した。

【方法】
これまでの検証で京大の加担の中で最も典型的非人道的な史実を問題とした。それは、京都帝国大学時代に医学博士の学位を授与された旧満洲第 731 部隊軍医将校の学位論文の主論文「イヌノミのペスト媒介能力ニ就テ」(以下、論文)である。京大は、1945年5月31日付の「学位申請」を受け付け、医学部教授会の議、総長 による文部大臣宛申請、文部大臣の認可を経て、同年9月26日に学位授与を決定し、学位記を同人の妻に届けた。論文の主な疑問点をあげる。

① 実験の対象、方法の項では「さる」について説明が一切ないにもかかわらず、結果の項では「特殊実験」の項があり「さる」の結果が記述されており、学術論文の体をなしていないのではないか。
②「特殊実験」の項では「發症さるハイヌノミノ附着後 6-8日ニシテ頭痛、高熱、食思不振ヲ訴ヘ」という記述があるが、サルが「頭痛、高熱、食思不振」を訴えられるか。さらにグラフで示されている死亡「さる」 の体温は、サルの平熱に相当し高熱とはいえないのではないか。
③ 文中の「動物感染試験により該蚤も亦『ペスト』媒介者なる事実を確認し、更に進んで特殊実験を行い、先人の見解と異なり『イヌノミ』も亦人類に対する 『ペスト』媒介蚤なる新事実を発見」を京大医学部教授会の審査委員により作成された論文審査要旨では、学術上有益と認めている。この文脈から「特殊実験」はヒトに対する感染試験を指しているのではないか。ヒトに対する感染試験抜きの結果で「イヌノミ」もまたヒトにペストを感染するとは認めることはできないのではないか。

「目的」に賛同する有志により、満洲第 731 部隊軍医将校の学位授与の検証を京大に求める会 (略称: 731 学位授与の検証を求める会、5名の共同代表、5名の事務局員、西山事務局長)が2018 年1月20 日に創立された。

会は、上述の疑いが当たっていれば、実験報告のねつ造に留まらず、実験が極めて非倫理的・非人道的であったことになるとして、厳正な学位審査を行なうべき学術機関として、京大は、このことについて検証する義務があり、もしヒトであったことが判明した場合、学位授与を取消すのが当然ではないかという旨を京大の山極壽一 総長に要請することを焦点にした。会は、賛同・加入の呼びかけ、要請署名・募金の訴え(署名用紙と多言語インターネットサイト署名)、記者会見などによるメディアへの広報、集会、京大との折衝などの活動を展開した。


【結果と考察】
京大は、2018年7月26 日に野田亮研究倫理・安全推進担当副学長 (医学研究科教授)、研究推進 部と教育推進・学生支援部の事務職員でもって会との面談に応じ、
1) 皆さんの要請書を深く受け止める。
2) 過 去を変えることはできないが、未来に生かすようにしたい。
3) 未来にいかすということは、現在の問題として とらえ、過去の検証をすることも含まれている。
4) 皆さんの言われたことを執行部で検討する。
5) 9 月上旬に 大学執行部で検討し、その結果を会に報告すると約束した。

同9月18 日には同副学長より、「京都大学における公正な研究活動の推進等に関する規程」及び「京都大学における研究活動上の不正行為に係る調査要項」を準用し、当該論文に関する調査を実施することとする回答が届き、規程・要項に基づく予備調査が開始された。

 しかし、2019 年2月8日に通知された「予備調査」の結果は、
「サルの頭痛を把握するのは不可能ではない」
「39 度の体温を有するサルもある」ので、「特殊実験」に使用された動物がサルであるということを明確に否定できるほどの科学的合理的理由があるとは言えず、実験報告の捏造・改ざんであるとまでは断定できない。
 さらに著者 に対するヒアリングも不可能であり、また、対象論文を科学的に検証するための実験ノートや生データが存在しないことから調査を継続することは不可能である。したがって本調査は行わないとするものであった。

同通知に対する異議申立は却下された。

 さらに文科省ガイドラインでは規定されている調査機関の委員等の氏名や議事録・資料の開示を要請したが、京大は「開示が必要」との判断には至らなかったと報告してきた。


【結論】
目的達成のためには京大による「本調査」実施が待たれる段階に達した。京大が「本調査」に踏み切るかどうかは世論次第であると考え、京大構内での連続企画、国内外の署名筆数の大幅、関連学会での発表・意見 交換などを進めるとともに、 「開示」については行政訴訟も辞さずに情報公開制度も活用していくことにした。


【参考文献・資料】https://war-kyoto-university.jimdo.com/, http://war-medicine-ethics.com/nishiyama/ Nishiyama_Work/NKWork_hyperlink.htm




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