「戦争はどこの国の人も鬼にするんですよ」
戦時中の満州(現中国東北部)を拠点に、細菌兵器の研究・開発に従事した731部隊。映像で日野原さんは、京都帝大出身の細菌学者で、部隊長だった石井四郎の講義を受け、旧日本軍が中国で行った残虐行為や捕虜をコレラやチフスなどの細菌に感染させる実験の映像フィルムを視聴させられたと明かし、「ひどかった」と振り返った。同大の学生の中には、後に部隊の研究に協力した者が大勢いたとも語っている。
映像は日野原さんが90歳代後半だった08~09年に撮影された。東京大空襲・戦災資料センター(東京都江東区)を訪れ、当時の館長で早乙女さんの父・勝元さん(22年に死去)と一緒に展示を見て回る様子などが収録されている。
日野原さんは、1945年3月の東京大空襲の際、聖路加国際病院(中央区)で数百人もの負傷者の治療にあたった。映像では当時を振り返り、その時の教訓を生かして95年に地下鉄サリン事件の救急治療の陣頭指揮を執った経験を語るインタビューも収められている。センターの視察を終え、戦争の悲惨さをかみしめるように述懐する中で語り出したのが、731部隊に関する記憶だった。
早乙女さんは、生前の日野原さんから映像公開の許可をもらっていたが、タイミングに恵まれず、手元で保管していた。日野原さんが結成した元気な高齢者が集う「新老人の会」(東京)から、イベントでの講演を依頼され、「日野原先生ゆかりの団体のイベントで世に出すことが一番いいのではないか」と映像を初公開することを決めた。
早乙女さんは「ロシアのウクライナ侵略などで平和が脅かされている今だからこそ、日野原先生が戦争で何を感じ、どのように命と向き合ったのかを伝えたい」と話している。
イベントは10月6日午後1時30分から。参加費1000円。問い合わせは同会のメールアドレス( t.shinrojin@gmail.com )へ。
◆ 日野原重明 =1911年、山口市生まれ。41年から聖路加国際病院に内科医として勤務し、院長や理事長を歴任。2005年に文化勲章を受章した。100歳を過ぎても診察や講演、執筆などの活動を精力的に続け、豊かな老後をいかに生きるかについて積極的に提言した。
「忘れてはいけないことだ」
京都帝大と731部隊の関係を調べている京都保健会理事長の吉中丈志さん(71)によると、部隊には同大出身の医師が数多く加わっていたが、その大半は戦後、口を閉ざし、何も語ることはなかった。
吉中さんは、生前の日野原さんと交流があり、日野原さんが石井の講義について語っていたのを覚えているという。石井が他大学で軍での活動について講義をしていたことは分かっていたが、京都帝大でも実施していたことは日野原さんの証言で初めて判明した。「学生を部隊に勧誘するために講義をしていたのではないか。日野原先生が話してくれたことで、こうした石井の動きが分かった」という。
日野原さんは吉中さんに731部隊について「忘れてはいけないことだ」とも話しており、「日野原先生には、部隊と“接点”を持ってしまった以上、その人道に反する行いを後世に伝えなければいけないという強い思いがあったのだろう」とみている。
0 件のコメント:
コメントを投稿